遠藤和良が詠んだ俳句のバックナンバー(2008年)です。

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二〇〇八年十二月
三ケ日の甘き蜜柑の届く朝
遠き日の蜜柑狩ふと蜜柑来る
来る年を迎へんとして畳替
畳替すませて部屋の広くなり

畳替して柔らかき日差かな

東京は銀杏黄葉の似合う街

冬晴れて関東平野山いくつ

冬晴れてほんに徳島川の町

ゴーギャンもゴッホも来ませ銀杏散る

ゴッホならどう描くこの黄銀杏散る

日に映えて銀杏黄葉のいよいよに

大銀杏散りて野の宮埋め尽くす

大銀杏黄葉の空の青さかな
落雷の傷跡あらは銀杏散る
野の宮を金色に染め銀杏散る
仰ぎゐて銀杏黄葉と空の青
木星と金星の間冬の月
松手入すませ義士祭待つばかり
義士の墓線香絶えず寺師走
寺中に提灯連ね義士の日の
義士祭へ高校生も線香持ち
義士祭の塩饅頭のよく売れて
義士祭や饅頭の塩効きのよき
線香の煙師走の泉岳寺
烈士みな我より若し義士祀る
享年を墓に確かめ義士祀る
そのかみのこと今にして義士の日や
彩りの中の彩り冬薔薇
彩りの失せし公園冬薔薇
公園の一隅凛と冬薔薇
野兎の足跡らしきくっきりと
野兎一羽発破に気絶せしと云ふ

フレームの小窓双葉の青の濃き

初氷踏みて幼なに戻りけり

狩人の老い狩犬も老いにけり

健康のことを考え根深汁

健康と云へば健康根深汁

余生なる言葉うべなひ根深汁

深谷葱深谷の匂ひしたたれり

フレームに京の壬生菜の育つ阿波

フレームの野菜信州信濃へと

愛車をば始動点検霜の朝

霜の朝愛車の霜を拭いてより

裏返し五指を広げて足袋を干す

自分から自分へ賞与する齢

年毎に年毎速く賀状書く

献血の一役サンタ罷り出て

帆といふ帆イルミネーション川師走

二〇〇八年十一月
どの菊も咲いて咲かせて菊花展
日向より日陰の朱色実千両
帰り花戻りに一つ見つけたり
名刹の裏は社や小鳥来る

そこここに蝶の舞ひゐて寺小春

実のなる木多き名刹鵯猛る

菩提子の数煩悩の数の如

菩提子の飛天のやうに翼つけ

彼方ほど紫がちに花辣韮

疎の密に見える距離より花辣韮

疎の密になりて紫花辣韮

彼方より見てこその富士花辣韮

近きより少し離れて花辣韮
辣韮の花紫の帯となり
紀の国も淡路も見えて花辣韮
コスモスや大学できて島の街
大学の島と言はれて秋桜
塩田のありしは昔秋桜
街路てふ街路コスモス咲き満ちて
海峡を真っ直ぐに飛び鷹渡る
鷹渡るだだひたすらにひたすらに
奥宮は風のたまり場神の留守
奥宮は風吹くばかり神の留守
錦なす紅葉の底に土讃線
お手播きの花梨たわわに実りをり
空海の伝えし花梨町木に
花梨の実どすんと落ちて里静か
青きまま落ちし花梨の重さかな
山眠り満濃池も眠りをり
空に実を残して花梨落葉す
大根葉出て阿波の茎漬始まりぬ
炊き立てに大根葉漬出て阿波の膳
松手入庭師はすでに来て居りし
四方より眺め尽くして松手入

天辺の枝に始まる松手入

細心に細心に松手入かな

松手入終りて空の近くなる

塵一つ残さず終り松手入

小春日の新郎新婦めでたかり

小春日に新婦のリング煌きて

独りより二人は楽し根深汁

搦手は静かなりけり花八手

茎の石大根葉と並べ売られをり

縁もまた運でありけり神の旅

二〇〇八年十月
木犀の香り溢れてゐる御苑
いづれ実の歪みてをりぬ青花梨
個性とは整はぬこと青花梨
歪なる方に魅せられ青花梨

皆違ふこと面白き青花梨

どれも皆非対称なり青花梨

よく風になびき御苑の花芒

背丈あるものから倒れ女郎花

倒れゐて真っ黒焦げに吾亦紅

今昔大和撫子藤袴

その奥に殊に揺らぎて男郎花

遅れ咲く萩に名残の雨滴かな

雨滴置くがまずみの実の赤さかな
垂るるほど熟れて紫式部の実
雨上がり杜鵑草凛として
入り乱れ乱れ水引草の花
道灌の嘗ての庵の実浜茄子
やはらかき幹に光を竹の春
初黄葉ここに始まるこの銀杏
ちぎれては又ちぎれては秋の雲
白き月東に秋の日の沈む
夢道忌の句会流派にとらはれず
静子なる妻の写真や夢道の忌
妻ありてこの人この句夢道の忌
秋の夜のストラディバリの音色かな
爽やかやストラディバリのチェロを聴く
バイオリンそしてチェロ聴く秋の宵
鈴生りといふはこのこと銀杏の実
銀河濃しみなとみらいへ続く道
秋の蝶とけてはぐれてそれっきり
直弼の面影の城秋時雨
肌寒き朝の味噌汁濃き熱き

一つとてこぼさず零余子吾に呉れ

採り立ての零余子を何と譬えやう

木に毬を残せしままに栗終る

やうやくに栗の四五粒探しけり

枝先に殊に咲きゐて帰り花

残る萩雨に濡れては輝やけり

野に咲くは蓼科仲間の赤のまま

栗零余子ともに炊き居て夕支度

菩提子の風に撒き散らされてをり

菩提子の舞ふが如くに落ちにけり

菩提子の背ナにプロペラついてをり

喬木をそのまま稲架に越後かな

喬木の稲架そこここにある越後

原生林残す城山鵙高音

城山の搦め手暗し昼ちちろ

べらんめえ口調の首相赤い羽根

雛壇の大臣諸侯赤い羽根

雛壇に並ぶ来賓赤い羽根

お馴染のニュースキャスター赤い羽根

潮筋を追ひて集るハマチ舟

はばたきて又はばたきて消ゆノスリ

鷹渡る孤高の旅でありにけり

風に乗るやうには見えずノスリ飛ぶ

海峡の水面掠めてノスリ行く

手の届きさうなる高さノスリ行く

一合の温め酒に酔ひにけり

みやげやに零余子の並ぶ道後の湯

やや寒といふと言へども道後の湯

海鼠壁映す掘割萩の街

掘割の舟より見上ぐ萩の花

赤よりも白の枝垂れて萩の花

待ち人を待ち疲れゐて萩の花

新蕎麦や外つ国人も列の尾に

新蕎麦や外つ国人はもの静か

新蕎麦や外つ国人の箸使ひ

浦祭神輿と台車新しき

先陣は鵜とともにゐて鴨の川

目の前に海ある中洲鳥渡る

初めても道を違へず鳥渡る

今着きしばかりの鴨の落ち着かず

奥宮に人影なくて秋祭

奥宮は銀杏こぼれゐるばかり

菊人形しとどに水を貰ひけり

二分咲きも菊人形でありにけり

この里の男総出に秋祭

山車担ぐ男の眉の引き締まる

里祭お練の衆はちはや衆

二〇〇八年九月
夏の日のはや遠くなり百日紅
踊り終へ五輪も終り百日紅
なるほどに百日紅なりさるすべり
散りつづき咲きつづく花百日紅

一雨が天下の秋を連れて来る

遠き地の子らをこころに秋出水

高原の玉蜀黍の甘さかな

茹でたての玉蜀黍も出て夕餉

もぎたての玉蜀黍をさっと茹で

芝離宮桔梗の花に迎へられ

刻み煙草ありしは昔秋澄める

遠き日の煙管懐かし花桔梗

かなかなの日暮れ真昼の法師蝉
にぎやかであれど淋しき法師蝉
命とは燃え尽くすもの法師蝉
生きるとはいつか死ぬこと法師蝉
澄み渡る空の頃まで百日紅
余生なる言葉は知らず百日紅
鍋物の具に松茸の目出度けれ
松茸はまづ母からといふて子は
均等に分けて松茸いただきぬ
台風に疎遠なる年稲の花
快晴の二百十日となりにけり
神戸港さざ波一つなき厄日
ホテルより神戸の夜景見る夜長
ポートピアありしは昔秋の虫
クラス会尽きぬ話の夜長かな
破れ傘南京町の水盤に
仲秋の南京町の中を歩す
秋日傘傾けてみる風見鶏
異人館坂道多し秋暑し
玄関に芒を活けて月を待つ
テラスにも芒を活けて月を待つ
車椅子同士寄り添ひ月を待つ

待宵の鳴門海峡闇の底

仄かにも雲間にありて小望月

十五夜のこれほど大きかりしかな

来年もこの月見んと今日の月

紋きりの団子いただく良夜かな

病魔跳ね飛ばして居りぬ今日の月

椰子茂る阿波は南国今日の月

南国の椰子の上なる今日の月

名月や四国三郎満ち満ちて

台風のこと忘れゐる良夜かな

鷺草の散り湿原の女郎花

暮れなずむ湿原静か女郎花

湿原の奥のその奥女郎花

群れて咲くことはなけれど女郎花

吾亦紅活けて文学書道館

デパートのサロンにも活け吾亦紅

台風の過ぎ去りし空飛行雲

父の骨拾ふ子と孫昼ちちろ

初七日もその日に済ませ昼の虫

バーゲンの七割引となる葉月

売り出しの人ごみにゐて鰯雲

又の名を四国三郎鯊を釣る

伐りし竹竿に鯊釣りしたる日よ

幼なほどよく釣れてゐる鯊の竿

鯊釣の家族の一ト日暮れにけり

名刹の門前広し竹の春

中華街老舗の垣根竹の春

中庭に光こぼして竹の春

その奥に控へてをりし吾亦紅

屋敷墓天明の文字藍の花

そして又一両列車藍の花

周囲みな捨て畑ばかり藍の花

水飢饉ありしは昔藍の花

蓼を食ふ虫の来てをり藍の花

葉といふ葉虫に食はれて藍の花

年毎に畑を代えて藍の花

二〇〇八年八月
在りし日の母のことふと芋茎汁
酢味噌よし生姜醤油も芋茎好き
法師蝉夏の盛りに立ち入りす
琉球のマンゴーどかっと届く朝

琉球の太陽が好きマンゴ好き

琉球の太陽恋しマンゴ来る

マンゴーの種までしゃぶり男の子

マンゴーの種のこんなに大きくて

幹といふ幹に熊蝉ゐる一樹

蝉時雨和らぐ午後となりにけり

蝉時雨忽と止みたる午後となり

懐に冨士を抱きて雲の峰

遠き地の友と今宵の阿波踊り
昌平と踊り込みたし阿波踊り
昌平の声が聞こえる阿波踊り
棚経の僧のバイクのヘルメット
棚経の僧のバイクで帰りけり
棚経の僧の読経のあっけなし
霊棚の供物いつもの茄子胡瓜
茄子の牛胡瓜の馬の地に帰る
除草せぬ庭の一隅花茗荷
大阿蘇の草原を来て花茗荷
丘といふ丘は古墳やあきつ飛ぶ
竪穴と高床遺跡赤蜻蛉
笹重ね太鼓を叩き虫送る
鉦太鼓打ちし列行く虫送り
台風の阿波に来ぬ年稲の花
お隣も宅地となりぬ稲の花
父のこと母のこととが走馬灯
歳月は遠のくばかり走馬灯
両の手に余る西瓜を?いでくれ
つるべ井戸あればと思ふ西瓜かな

溝蕎麦の咲きし水路の水涸れて

溝蕎麦の里の小川を埋め尽くし

今年また隣は空き地玉簾

五輪なる宴のあとの秋の虫

二〇〇八年七月
雷の落ち俄雨終りけり
一日に洗濯二回梅雨明くる
列島に水満ち足りてこの青田
韋駄天の見る間に増えて雲の峰

先端は韋駄天なるや雲の峰

七夕の笹に完治の夢結ぶ

曇る日の白の妖しき半夏生

東京の雨は糠雨半夏生

夏霧の底に東京沈みけり

浴衣着て弁天島の花火見に

浜松の駅を占領して浴衣

落雷の飛機の点検何時までも

落雷の飛機欠航となりにけり
飛機雲を抜ければ梅雨を知らぬ空
スーダンの友へ土産の扇子かな
開き方教へ扇子を異国子へ
扇子より始まるご縁ありにけり
今年また朝顔の絵のこの扇子
霜降りの仕込み終へたる鱧を賞づ
くにうみの島の漁師の鱧料理
鴨川の茶屋に来てゐし阿波の鱧

鴨川の茶屋に出ている阿波の鱧

笠智衆とぞ呼ばれけりパナマ帽
パナマ帽被る齢となりにけり
便利屋の朝一番に草を引く
炎天下水廻りして来られしと
炎天を赤銅色の翁来る
心太京都大原三千院
縁台に外つ国人と心太
心太箸一本で足りにけり
泉州の水茄子漬の届く朝
品川の作りし富士の山開き
境内に作りし富士の山開き
登る人ばかりなりけり山開
メイドインエクアドルなるパナマ帽

エクアドルなる国はどこパナマ帽

古文書に鮎の友釣り取り締まれ

高みより夏蝶落ちてゆきにけり

過去てふは既に遺物や蝉の殻

長調の時に短調蝉時雨

睡蓮の咲きて明るき池となる

睡蓮の開きひらきてモネの池

睡蓮の青あり金の蕊のあり

白靴に似会ふ帽子を探しけり

白靴に似会ふ帽子のなかりけり

白靴の新郎新婦凛として

白靴を履きて背筋を伸ばしゆく

冨士の峰飲み込んでゐる雲の峰

床の間に野の花活けて夏座敷

野の風の通る旧家の夏座敷

品書になき鰻重の出るホテル

品書になき鰻重の出てくる日

鮨屋にもありて土用の鰻かな

料亭も土用の鰻うなぎかな

駅頭にひさぐ鰻も土用丑

日本中土用の丑の鰻かな

炎天下東京の海鉛色

憲法の原本曝書文書館

新旧の憲法曝書文書館

護衛付け憲法曝書文書館

虫払法要標ばかりかな

金比羅の芝居の団扇小振りなる

二〇〇八年六月
七変化始めは白でありにけり
咲き初めしよりの紫額の花
入梅の日にリハビリの始まりぬ
日向より日陰に映えて額の花

純白の新郎新婦海紅豆

白き家数多琉球海紅豆

日溜りを我が物顔に捩れ花

文字摺りの風に向き合ふ背筋かな

この池に目高の宇宙ありにけり

子ら去りて群がり浮ける目高かな

父の日や届きて鯵の一夜干し

父の日に一夜干し鯵届きけり

実の生らぬ楊梅ばかりにて御苑
国会の庭の楊梅よく茂り
顔中を楊梅にせし日の遠く
蒸す日ほど香を放ちゐて栗の花
そこらぢゅうその香に染めて栗の花
夜釣の灯照らす川面の静寂かな
長雨の止んで忽ち夏に入る
夜釣の灯四国三郎雨催ひ
琉球の新聞に巻きゴーヤ呉れ
琉球の苦瓜なるぞかく太き
琉球の苦瓜ですと御裾分け
水無月の土日雨の日ばかりかな
長梅雨や水の涸れたる国思ふ
七曜を梅雨前線居座りて
鈴なりのままに朽ち行く余所の枇杷
枇杷の実の甘きて種の大きくて
お見舞いの枇杷の滴るばかりかな
枇杷剥けば汁迸りおどろきぬ
梅雨晴れ間回すこと先づ洗濯機
梅雨晴れ間洗濯物が待ってゐる
二〇〇八年五月
鮎の子のくの字くの字となり上る
又ひかり又腹ひかり鮎上る
堰を落ち堰を落ちては鮎上る
一跳びに堰を越え行く鮎のあり

ぼうたんを出る虫金の粉まみれ

本堂に泥擦り付けつばくらめ

つばくらめ巣泥を運ぶ朝より

それぞれに佳き彩なれど白牡丹

牡丹寺はじめの白に戻りけり

白てふは飽きの来ぬ色白牡丹

鐘楼の下の満天星万の鈴

新漬の虎杖くるる札所茶屋

石南花や本堂朽ちてなけれども
石南花の古木昔も今も咲き
崖に根を張りて石南花咲き継げる
岩つよく噛み石南花の古木かな
崖の空へと石南花の咲き継げる
日陰りいよいよ濃かり藤の花
世に疎くゐて里山の藤の花
病院の長き回廊苗代寒
妻手術時間と闘い苗代寒
手術待つ寡黙尽くして苗代寒
戦場の如きへ医師や鉄線花
鉄線花手術のチーフ医師は女史
「山越えた」術後の妻の杜若葉
麻酔より醒めたる妻に若葉光
病院へ通ふ道々立葵
病院へ通ひて二十日街薄暑
入院の妻に教わり豆ご飯
入院の妻に代わりて豆ご飯
今日炊いてディナーメインは豆の飯
お代はりの声の飛び交ひ豆の飯
一片の昆布忍ばせ豆ご飯
一滴の醤油が決め手豆ご飯
二〇〇八年四月
黄沙来る北京の露天商をふと
黄沙降る日干し煉瓦の石畳
黄沙来る河北で植えた木は如何に
黄沙来る口の中まで黄沙来る

長城のけぶる果てより黄沙来る

蛇行する長城黄沙降り継げり

大砂漠痩せていくかも黄沙来る

紫禁城黄沙の底に鎮まれる

寝転んで富士見て居たし西行忌

辛夷咲く古いコートを脱ぎ捨てて

黄昏れて艶増す垂れ桜かな

仰ぎ見る垂れ桜の垂れやう

六義園垂れ桜に迎えられ
灯の入りて妖しきまでの糸桜
庭園に小峠ありぬ木五倍子咲く
そのかみの大名の庭木五倍子咲く
木五倍子咲く金の鎖を垂らしては
天辺は鳥の寝床や緑さす
はるかより辛夷の白のよく見えて
渕覆ひ尽くしてをりぬ桜かな
菜の花の河原に混じり花吹雪
菜の花の風に桜の舞い降りて
噴水のごとくにしだれ糸桜
咲き満てる花に目白の篭りづめ
鶯のよく鳴く日なり客なき日
縺れては解けて垂れて糸桜
江戸城址花見異国語交じりゐて
その奥に日差集めて著我咲けり
黄色ならゴッホゴーギャン濃山吹
麗らかや花鳥諷詠夢うつつ
大振りであれどたおやか石南花は
身構へることなく生きて雪柳
花馬酔木東京駅の街路にも
馬酔木咲く高田馬場はこのあたり
芽柳のやうにさらりと生きぬべし
芽柳のやうに自在に生きたかり
青柳さらりさらさらさらさらり
強風に傘を折られて虚子の忌へ
花御堂椿は虚子の好きな花
雨の日の桜こんなに紅きかな
芍薬の芽の明るさに立子ふと
桜蕊わたしも前期高齢者
春一番風車壊して駆け行けり
空港の午後はのどかや揚雲雀
滑走路まで蒲公英の競り出して
富士見えてふはりふはふは春の雲
小振りなる方もよく売れ桜鯛
この時期のこの店で買い桜鯛
内海の筏に釣れて桜鯛
スーパーの散らしの美しき桜鯛
桜鯛春告魚と売られをり
鼠木戸より花冷えの忍び入る
花冷えの風連れて入る鼠木戸

大江戸の春は知らねど金丸座

金比羅の春に落ち合ふ習ひかな

海老蔵の六方春愁吹き飛ばす

遅桜六甲山に入りにけり

天辺は雲に解け合ひ辛夷咲く

花冷に知る六甲の高さかな

摩耶山を下り遠足の子らに会ふ

遠足の子らハイキング追ひ越して

見下ろせば墨画の世界春の海

沖の船留まりて見え春の海

遠足の列伸び縮みしては行く

寄り添ひてをるもをらむも二輪草

朝の日に金の簪木五倍子咲く

団塊のいづれも老のピクニック

団塊はけふも団塊ピクニック

団塊を追って団塊ピクニック

野遊びの衆の熟年ばかりかな

をのこよりをみなが元気野に遊ぶ

道標なき六甲の野に遊ぶ

尾瀬ならぬここは六甲水芭蕉

立金花ここに日差しの溢れをり

かたかごはいつも震へてをりにけり

日溜りに春竜胆の小さき紺

六甲を下り花水木咲く町へ

蕊らしきもの花らしき花水木

二〇〇八年三月
蜂須賀の墓所だだびろし梅の花
家祖の墓所東端にあり梅の園
豊臣家尊ぶ家祖の墓の梅
日を浴びて日曜市の木瓜の花

カタログの写真の美しき苗木買ふ

山独活の朝一番に売り切れて

産直の目立ちし旗に菊菜売る

緋も赤も白も達磨も目高かな

今日だけの特価の木札目高の子

目高の子錦鯉より高値なる

売り切れて急ぎて足しぬ桃の花

春塵や込み合うてゐる洗車場

春塵にワイパーの水枯れにけり
黄砂来て旧の木阿弥なる洗車
啓蟄や旅行案内どっと来て
穴出たる虫に嘴襲い来る
啓蟄や雲を抜けたる空の青
鴨引きて鵜の陣出来てをりにけり
三分咲き風に散りゆく花のあり
一本の桜に目白又目白
三分咲き蜂須賀桜とぞ申し
こんなにも蜂須賀桜紅きかな
鳥帰り煌く川のあるばかり
枝先へ先へとたわわ猫柳
猫柳鼠色とぞ申したり
白魚の天丼とあり注文す
梅林百齢の樹を真ん中に
幹太き開祖の梅の咲きっぷり
人散りて梅の香りも散りにけり
一山の目白を集め梅の里
梅日和茶屋の弁当よく売れて
梅の香の真ん中に居てお弁当
老梅と幼梅の相隣り合い
初蝶の大鐘楼をたもとおる
東京の遍路の真っ赤なる外車
啓蟄の蛙真白き肌をして
山の上の寺南向き百千鳥
大方は婦唱夫随と見ゆ遍路
葱坊主阿波国分寺里山に
格高き伽藍は昔梅の花
尻太く帰れぬ鴨となりしかも
残る鴨帰る鴨ゐて川流る
少し引きまた少し引き鴨帰る
鴨帰り四国三郎真っ平
徳島は島と洲の町春の水
地表より高き水位の春の里
ともかくも橋多き町水温む
岸の草均してをりぬ春の水
入漁料払うて入る蜆採
二〇〇八年二月
薄氷の絞り込みたる水面かな
目刺出てけふ節分と知る朝餉
節分の朝の目刺の藁を抜く
節分の阿波の山々雪化粧

満作や兄弟姉妹皆達者

淡雪に眉山をみなの如きかな

紅梅に宿りし雨滴紅仄か

雨に濡れ蝋梅の蝋透けにけり

目標は五キロ減量春立てり

フィットネスの足軽々と春立つ日

立春の光水面に行き渡り

立春の光遍く水面にも

春節も祝いめでたく日本にて
徳島で祝う春節領事来る
中国の友と春節にぎやかに
白梅の白の極まる空の青
ほこほこの田圃の土や梅探る
梅林は白一色の梅の里
遠目にも紅の濃き梅の里
行き交える人なき里の梅探る
この里も限界集落梅の花
手入れする人なくて野の梅の花
歩行者として隧道を梅探る
雨に濡れ石垣美しき迎春花
青石を積みし石垣迎春花
青石に影を散して迎春花
石垣の天辺よりの迎春花
雨の日の白梅紅の露こぼす
集会所前の老梅人集め
晴れに見て雨の日もよし梅の花
糠雨に寒紅梅の色増して
里人と一人も逢わず梅探る
野焼して高原丸くなりにけり
堤防に野次馬集め野火猛る
野兎走り人影走り野焼かな
風花の舞ひて祝の座中断す
風花の一片舞ひてそれっきり
絶品は絶品の顔雛人形
啓蟄や今年は何処へ行こうかな
恋猫の汚れやつれて帰りけり
猫の夫疲れ果てての歩きやう
恋猫の足取り重く重きかな
午後よりは半分閉じて犬ふぐり
犬ふぐりゴッホの墓へ続く径
ゴッホ見しこの地この景犬ふぐり
仰ぎ見る辛夷の空の青さかな
薔薇の芽に棘の出来てをりにけり
紅白の薔薇の芽の皆同じ赤
対岸の水仙ことに輝やきて
水仙の向き揃へたる日差かな
横綱の一日署長日脚伸ぶ
早春の阿波へ横綱一家かな
春一番横綱阿波へお国入り

近づきてまた遠ざかる春隣

噴水の水煌きて春来る

春菊の込み合うてゐる屋敷畑

胡麻和えに菊菜の香り残りけり

二〇〇八年一月
餅搗きの序破急となるリズムかな
一族のどっと来て去るお正月
家族皆打ち揃ひたる雑煮かな
平凡と云ふが幸せ今朝の春

東西の横綱からも年賀状

年賀状来ぬ人のこと気に掛かる

何もなきことが幸せお正月

健康を祈る賀状の多くなり

賀状見て電話をしたくなりにけり

鉢合せ又鉢合せして御慶

折ることの惜しき新札お年玉

大方は親に預けるお年玉

雑煮餅まづ食べる数聞きてより
雑煮餅お徴しのみに食ぶ時世
親と子と孫といただき雑煮餅
数の子を音立てて噛む嬉しさよ
元旦の夕餉のカレーライスかな
客帰り部屋改めて新年会
一椀のさ緑めでて薺粥
東京のホテルの卓の薺粥
乗初はいつもの飛機の違ふ席
乗初の飛行機機首を上げに上げ
馴染なる初タクシーの運転手
大山へ日帰りスキーするてふ子
背に肩に両手に荷物スキー客
スキー客一人タクシー揺れに揺れ
いつの間に隣空き地に野水仙
年毎に広がり群れて野水仙
水仙の一茎一花我が狭庭
吉野川橋に寒釣今朝も居て
いつ見ても寒鰡釣の釣れて居ず
寒釣の男無口でありにけり
寒釣の寒の修行と云いながら
用意せし春著今年も着ず仕舞
春著着て童をみなのごとくあり
凍蝶の翅まで凍てて閉ぢしまま
冬蝶の翅ささくれてをりにけり
凍蝶の森の土へと還る夜
玄関に羽子板飾り置きてあり
盛花に羽子と羽子板添へられて
羽子板と紅白の羽子玄関に
蝋梅の盛花の香の籠に溢れ
盛花の蝋梅の香の部屋満たす
外つ国の子も来る浦のどんとかな
寒稽古終へて血圧正常値
弟子よりも師匠の気合寒稽古
一本の声弾みたり寒稽古
道場に湯気立ち上り寒稽古
梅探す即ち春を探しをり
崖や谷上り下りして梅探る
泥濘の道を往き来し梅探る
八角はやさしき御堂梅の花
蝋梅の荷台に乗せてあり出荷

日当りて蝋梅の金極めたる

薄氷の皺みてをりし水面かな

枇杷咲いて安政の字の遍路墓

薄氷の水面絞りて張りにけり

日当りてこそ蝋梅の色も香も