二〇〇六年十二月 |
初霜後キャベツ白菜甘くなる
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初霜と言いし程なく消えにけり
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凩や阿波の鳴門を吹き曝し
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凩の西方よりぞ来たる阿波
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柿簾ひたすら風を待ってゐる
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ミレーモネダ・ヴィンチも見て冬うらら
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搦手の跡の交番花八手
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一歩二歩寄るほど淡し冬桜
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山茶花のほかに花なき花の庭
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ボンネットまで白菜の干されあり
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寄鍋のあとの雑炊また美味し
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結局は自己主張して鍋奉行
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鯉の餌に陣組むごとく鴨のをり
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寄鍋の五人が五人鍋奉行
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寄鍋のあとの雑炊取り仕切る
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大銀杏黄葉一葉も動かざる
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樹上も樹下も銀杏黄葉かな
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散り銀杏十重に二十重に形揃へ
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生きるとはすさまじきこと大冬木
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生きること銀杏黄葉の明るさよ
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大銀杏散りて光の庭となる
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落雷の跡もはっきり銀杏散る
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ボーナスに縁なき歳となりにけり
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年賀状書き終え届く訃報読む
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「命」とや今年の一字火事多し
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冬帽子隅に置かるる男物
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外出に手放さず居り冬帽子
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デパートの階ごと飾り聖樹かな
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ぶつ切りの骨までしゃぶり鮟鱇鍋
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雪吊の松それぞれにある形
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雪吊を終えたる離宮鎮もりぬ
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離宮にも野生の鴨の来てをりぬ
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雪吊を終えたる松の気品かな
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短日や隣の大工カナダ人
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見覚えの他郷の藪の笹鳴ける
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どこまでも続く野の道笹子鳴く
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山頂の丸き空間笹子鳴く
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笹子鳴き吟行衆の忍び足
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奥院の裏の竹藪笹子鳴く
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咳一つ宴の視線を集めたる
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煙草やめ咳の一字を忘れをり
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講釈師まづおもむろに咳払ひ
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咳き込めど煙草離さず居て卒寿
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葬送の列の後ろに咳き込める
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冬濤に向き合ってゐる親不知
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冬の海能登金剛の昼暗し
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まがきまでしのつく飛沫冬の海
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灯台のほかは漆黒冬の海
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冬の海ただ海鳴のするばかり
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芝枯れて古墳の丘の丸くなる
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息白し眉山一周した日ふと
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雑炊に一家言持つ子らとゐて
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連泊の部屋の暖房してありぬ
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